祇王井川の水利と石部頭首工

内外エンジニアリング株式会社 松 優男

 近年、農業用水路・都市水路などの地域の水路網に流水を引き入れて、身近な水環境を再生しようとする取り組みが進展している。滋賀県の南東部に位置する野洲川沿岸地域では、非かんがい期(冬期)に農業用水路に流れる用水の配水計画を策定し水辺の環境の改善に取り組んでいる。こうした取り組みについて関係機関に話を伺っている中で祇王井川の事例を知ることとなった。

 祇王井川は滋賀県野洲市の中心部を流れ家棟川と合流して琵琶湖へ注ぐ一級河川である。祇王井川の上流側は農業用水路となっており、野洲川の設けられた石部頭首工の右岸から取水されている。


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写真1:祇王井川(一級河川)


 祇王井川の歴史は古く、「平家物語」に登場する祇王に纏わる伝説が伝えられている。『平家物語』に登場する祇王(妓王)は、都で評判の白拍子(舞姫)として描かれている。祇王は平清盛の寵愛をうけるが、最後には清盛のもとを去り、出家して往生を遂げるという悲哀の物語の主人公である。祇王は近江国野洲郡江辺荘(現在の野洲市永原・中北・北付近)に生まれ、故郷の人々が水不足に苦悩していたため、平清盛に願い出て用水を開いたと伝えられている。この用水は祇王の恩恵をたたえて「祇王井」と名付けられたという(広報やす201251日号p.21)。

 祇王井川は農業用水路であるが故、かんがい期は農業用水が流下しており流水が豊富にあったが、非かんがい期には農業用水が減少し祇王井川の流水も減少していた。


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写真2:祇王井川(用水路)


 野洲市で環境保全活動に取り組むフィールドワークやす(任意団体)では、活動の一環として野洲駅前を流れる祇王井川の清掃を行っていた。その清掃活動にて非かんがい期に祇王井川の流水が減少することに気がつき、琵琶湖から遡上するビワマスの生息環境を確保するため祇王井川の流水の増量に向けて関係機関への働きかけを行っていった。

 石部頭首工は国営野洲川沿岸土地改良事業で整備されて施設であり、農業用水を取水するための施設である。農業用水(かんがい用水)の水利権は許可期限が10年であり、許可期限を迎えると更新を行う必要がある。石部頭首工の右岸の非かんがい期の取水量は昭和50年頃に決められたものであった。非かんがい期の取水量は水路に土砂等の堆積を防止するために必要な水量を流すこととなっている。

 フィールドワークやすは、非かんがい期の取水量の増量を求めて野洲市、野洲川土地改良区、近畿農政局等の関係機関と協議を行った。老朽化した水路の改修等により昭和50年当時に比べて水路断面が変化しており、現地調査を行い水路に土砂の堆積を防止するために必要な水量を検討することとなった。

 国営野洲川沿岸土地改良事業の水利権は2018年の変更・更新において受益面積の減少や営農状況の変化に伴いかんがい期の取水量が見直された。非かんがい期の取水量についても見直された。非かんがい期の石部頭首工右岸の取水量は、現地調査の結果を踏まえこれまで0.440m3/sのものが0.999m3/sに見直されている。

 水利権の見直しは、石部頭首工の上流に位置する他の頭首工等で必要な水量を確保するとともに、河川の正常流量を確保しつつ流域全体で見直しが行われている。2018年の水利権の見直しはかんがい期の必要水量の見直しとあわせて非かんがい期の取水量についても見直された。市民に水路など身近な環境に対する視線があったことも興味深い点である。地域の潤いある水辺が維持されることが望まれる。

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