雨の日に行ないたいフィールドワーク

矢嶋 巌(神戸学院大学人文学部)


 最近勤務先で行なわれたカリキュラム改編で、再び地理教職科目を担当することになった。現在学習指導要領の改訂が進められている。今後刊行される中学社会科地理的分野の教科書では、学校周辺で地域調査を行なわれ、防災に関する内容が組み込まれる必要がある。科目が改編される高校地歴科では、必修科目となる地理総合において、世界や生徒の生活圏で見られる自然災害や対策などへの理解が求められている。また、課題追求・解決活動を通じて社会的事象の地理的な見方・考え方を習得する地理探究(選択科目)では、地理総合の内容を踏まえた実践的学習が求められ、身近な地域で題材を得る必要があると思われる。
 これまでも勤務先の講義や演習では、できるだけキャンパスの周辺に講義や演習の題材を求めるようにしてきた。地形や気候、植生といった自然環境に関しては、通学先である大学の自然環境に関心を持つようになれば、将来社会に出た後、自らが住む場所はもちろん、勤務先とそこまでの経路の自然環境と災害発生リスクに気が及ぶようになるかもしれない。
 神戸市西区の台地上にある勤務先のキャンパスでは、敷地内の低い場所にグラウンドがあり、そのそばの段丘崖には竹林が見られることから、社会問題ともなっている竹林拡大の事例として、講義時に学生全員と観察してきた。このグラウンドの隅には、ここが洪水調整池であることを示すプレートが掲げられていて、遠回りをして見に行き洪水調整池の目的と機能について説明する。しかし、実際に雨水が貯まっている状況を見たことはなく、このことがずっと気がかりとなっていた。
 各地でひどい水害が発生した2018年の梅雨時、被害はなかったものの、勤務先周辺でも何度か豪雨に見舞われた。この時、思い切って件のグラウンドの様子を確認することにした。雨合羽を着、長靴に履き替え、防水カメラを手にして向かう。現場に立つと、グラウンドのほとんどが水に浸かっていた。深いところでは20cmに達する場所もあった(写真1)。たしかに洪水調整池として機能していた(写真2)。

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写真1 水深20cmほどの洪水調整池(2018年6月下旬撮影)


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写真2 グラウンドが洪水調整池として機能する様子(2018年6月下旬撮影)


 よく見ると、洪水調整池の洪水吐から少しずつ水が流れ出ていた。暗渠の上の構内道路を歩いて、さらに低い位置にある池の様子を確認した。かつての農業用溜池で、100m四方を超える大きさである。みると、グラウンドの方から流れてきた濁水が、ドドドドと音を響かせ物凄い勢いで池に流れ込んでいた(写真3)。池の水位は天端に近い。思わず息を呑んだ。こちらに職を得てそれなりの年数を重ね、キャンパスに関する地理的事象についてある程度は知っているつもりであったが、初めて目にする光景であった。

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写真3 池に流れ込む濁水(2018年6月下旬撮影)


 現状、業務のため遠出を伴う研究がしにくいこともあり、勤務先と周辺の「水」について、少しずつ勉強している。通例、研究のフィールドワークは曇天あるいは晴天が望ましい。しかし、この件に関するフィールドワークに関しては雨天が望ましい。30年ぶりに雨合羽を新調し、不勉強な自らを追い込んでいる。

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