湖沼保全政策はどのように学び合えるのか

滋賀県立大学環境科学部 平山奈央子

 2018年10月15日~19日に開催された第17回世界湖沼会議(いばらき霞ヶ浦2018)に参加しました。会議の詳細については<http://www.wlc17ibaraki.jp/index.html>をご覧ください。世界湖沼会議は隔年で開催されており、私が初めて参加したのは2001年に滋賀県・琵琶湖畔で開催された第9回世界湖沼会議でした。今年の会議では『持続可能な生態系サービス』をキーワードとして、全体フォーラムや9つの分科会において研究・活動発表、討論が行われました。私は琵琶湖の住民参加型評価について発表するとともに、その他、統合的湖沼流域管理に関する分科会や北浦・涸沼(ひぬま)・千波湖をめぐるエクスカーション等に参加しました。
 分科会では、フィリピン・メキシコ・セネガル・ネパール等様々な国における湖沼(群)の状況や研究成果などの情報を得ることができました。例えば、フィリピンラグナ湖での湖沼環境評価の可視化やネパール湖沼群でのラムサール登録による住民参加型保全への士気の高まりなど、学ぶところが多くありました。ただ、紛争地域や開発途上国など国の状況や政治体制、法制度、文化が異なるため、問題とそれらへの対応が異なるのは当然のことで、それぞれの湖沼で実施された保全政策や取り組みをどのように学び、自身の対象湖沼で活かせるのか、ということを考えさせられました。
 エクスカーションでは、霞ヶ浦コースもあったのですが、訪問したことがなかった涸沼・千波沼について知りたいと思い、そちらのコースを選びました。2015年にラムサール条約の登録湿地となった涸沼では市民活動団体や漁業関係者が精力的に活動されており興味深かったのですが、特に、最後に訪問した霞ヶ浦導水事業の那珂機場が印象に残っています。ご存知の方も多いと思いますが、霞ヶ浦導水事業は図1と2に示すように、那珂川(なかがわ)・霞ヶ浦・利根川を地下管路で結び、霞ヶ浦の水質改善や那珂川・利根川の渇水に備えた水量調整のための事業です。事業の詳細は国土交通省関東地方整備局霞ヶ浦導水工事事務所のホームページで紹介されています。

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図1 霞ヶ浦導水事業の概要(1)* 


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図2 霞ヶ浦導水事業の概要(2)* 

 この事業は1985年から進められていますが、訪問した時点では全ての事業が完了していませんでした。写真は、那珂川から導水された水を一次的に溜める沈砂池で、2019年度から那珂川‐那珂機場‐桜機場の通水を開始するという事でした。

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写真 那珂機場の沈砂池


 霞ヶ浦導水事業では、河川・湖沼の水を人工的に移動、混合させるため、流入先の環境変化や漁業資源への影響を懸念する声や水需要の試算への疑問などがあります。那珂川の漁業関係者は事業の差し止めを求めて訴訟を起こしましたが、2018年に和解が成立し、事業は継続されています。これと同様に、琵琶湖でも水資源開発事業として1972年から97年に琵琶湖総合開発が実施されました。この時も、漁業資源や自然環境への影響、健康被害の懸念から事業の差し止めを求める訴訟が起こりましたが、事業は継続、完了しました。その後、琵琶湖はどういう状況になっているでしょうか。確かに、漁業資源の減少、水草の繁茂などの問題がありますが、これらに影響する要因が複数あり、しかも複雑に関係し合っているため、開発事業による直接的な自然への影響を評価できません。同じ日本国内の湖沼であっても、琵琶湖の経験を霞ヶ浦で活かすことは難しいのでしょうか。
 今回の湖沼会議の口頭発表の一つに、「湖沼環境の悪化とその政策」を「人間の病気と治療方法」に見立ててお話しされていた先生がいらっしゃいました。その例えをお借りして、個々人の体形や特性は異なるけれどもある程度一般化された治療方法や薬があるように、河川や湖沼の環境変化やそれに対して実施した政策を並べて見渡す、あるいは比較することで、副作用が少なく多くの湖沼に効果のある政策が浮かび上がってくるのではないかと思いました。また、湖沼が抱える近年の環境問題は様々なことが複雑に関係しているため、関係分野の現状や影響について情報共有や議論,調整することの必要性を改めて感じました。

*国土交通省関東地方整備局霞ヶ浦導水工事事務所:霞ヶ浦導水事業の概要<http://www.ktr.mlit.go.jp/dousui/index0001.html> (掲載図を一部切り取り)



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